プロスペクト理論(Prospect Theory)は、FXにおいて人気となっている理論の一つです。
しかしこれは1979年にダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって提唱された、意思決定理論の一つであり、人々がリスクや不確実性のある状況でどのように選択を行うかを説明するために設計されました。特に、従来の期待効用理論が説明できない現象を捉えるために重要なフレームワークとなっています。
しかし、すでに半世紀前のものとさえいえます。
今回はプロスペクト理論の特徴をふりかえり、その反論と現代の研究について改めて確認していきたいと思います。
参照点依存性
人々は絶対的な結果ではなく、現在の状態(参照点)からの変化として結果を評価します。
損失回避
同じ価値の利益と損失がある場合、損失の方が強く感じられます。
非対称的リスク態度
利益があるときはリスク回避的であり、損失があるときはリスク追求的です。
確率の重み付け
低確率のイベントは過大評価され、高確率のイベントは過小評価されます。
プロスペクト理論の限界と批判
プロスペクト理論は多くの実験的証拠に基づいていますが、その適用には限界があると指摘されています。特に、以下の点が批判されています:
実験条件の制約
実験はラボ環境で行われることが多く、現実の複雑な意思決定状況を再現していない。
パラメータの調整
理論は多くのパラメータに依存しており、これらのパラメータを現実のデータに適合させることが難しい。
異文化間の違い
文化的背景や個々人の経験により、意思決定プロセスが異なる可能性がある。
最新研究の動向とプロスペクト理論の関係
しかし、プロスペクト理論の限界を克服し、さらに発展させるために、最新の研究が進められており、その確からしさはやはり存在しているというのが一定の結論となっています。
累積プロスペクト理論の発展
従来のプロスペクト理論を累積的に表現することで、より多くの不確実性や複数の結果を考慮できるようにした「累積プロスペクト理論」が提案されています。この理論は、利益と損失に対して異なる重み付け関数を使用し、価値関数と重み付け関数の特性を説明するために、減衰感受性と損失回避の原則を利用しています(Tversky & Kahneman, 1992)。
第三世代プロスペクト理論(PT3)
この新しい理論では、参照点が不確実である場合にも対応できるように設計されており、意思決定の重みをランク依存的に指定しています。
PT3は、受け入れ意欲が支払い意欲を上回る傾向を予測し、選好逆転現象の観察されたパターンを説明します(Schmidt, Starmer, & Sugden, 2008)。
プロスペクト理論の再現性の確認
最近の多国籍研究では、プロスペクト理論の核心的なパターンが再現されるかどうかをテストしています。
この研究は、19カ国、13言語で4,098人の参加者を対象に行われ、元の実験方法を調整しながら、ほとんどの理論的整合が再現されました。
この結果は、プロスペクト理論の実証的基盤が当初の想定される批判に限らず、広範囲にわたって再現可能であることを示しています(Ruggeri et al., 2020)。
神経経済学とプロスペクト理論
神経経済学は、脳の活動と意思決定プロセスの関係を研究する分野であり、プロスペクト理論の背後にあるメカニズムを神経科学的に解明しようとしています。特に、損失回避や確率重み付けの歪みなど、プロスペクト理論の根本的な行動現象の神経相関が実証されています(Fox & Poldrack, 2009)。
結論
プロスペクト理論は、人間の意思決定プロセスに関する重要な洞察を提供し続けており、最新の研究はその適用範囲をさらに広げています。
特に、累積プロスペクト理論や第三世代プロスペクト理論などの新しいモデルは、より複雑なリスク環境に対応するために設計されており、プロスペクト理論の有効性を再確認する研究が続いています。
これにより、プロスペクト理論は現代の多様なリスク環境や社会的影響を考慮した意思決定モデルとして進化し続けることが期待されます。
FX的結論
FXにおける結論としては、プロスペクト理論の最新研究に基づくと、FX取引においても、トレーダーは利益の際にはリスク回避的であり、損失の際にはリスク追求的な行動を取る傾向が強いことは、もはや変えることのない真理として存在しているということになります。
つまり、損失回避の心理が過度なリスクを誘発し、最終的にはパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性があるため、リスク管理戦略こそが最も大事である、という、テクニック重視の考えよりマネジメント重視の思考を持ち続けることが、何よりも重要です。
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